えぬぴぃOh!vol.78(2021年夏号)_web版

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土佐特有の「絵金(えきん)」文化を未来につなぐ

【寄稿】すてきなまち・赤岡プロジェクト 北山めぐみ

 香南市赤岡町で、絵金の芝居絵屏風が飾られる町家の保存・活用に取り組み、絵金文化の継承とまちそだて・人育てに取り組む団体、「すてきなまち・赤岡プロジェクト」の活動を、同プロジェクトの北山めぐみさんに寄稿いただきました。(森岡)

絵金の芝居絵屏風を知っていますか?

 みなさん、「絵金」という人をご存知でしょうか。土佐で生まれた幕末の絵師・金蔵のことで、通称・絵金と呼ばれています。絵金の特徴は、当時流行りであった歌舞伎や浄瑠璃の芝居を、二曲(にきょく)一隻(いっせき)(2つ折り)の屏風に描くスタイルにあります。この芝居絵屏風は、もっぱら神社の夏祭りで飾られ、高知県内の約10箇所の神社で見ることができます。

 中でも、香南市赤岡町には23枚の屏風が現存し、町家の軒下に飾るという他に例を見ない独特の展示風景を見ることができます。こうした町の特徴から、赤岡町では30年近くにわたり、絵金を核としたまちづくりに取り組んできました。

町家を未来につなぐ

 赤岡の芝居絵屏風は、町家の軒下に飾られることが特徴ですが、まちの人口減少や建物の老朽化により、徐々に町家が解体され、お祭りの風景が変わりつつあるのが現状です。

 こうした中で、平成23年の冬、町のシンボルである町家がまた1軒姿を消そうとしていました。それが、初代赤岡村長の邸宅・赤れんが商家です。すでに解体が進められていましたが、町の人たちと市の職員が所有者さんにお願いし、なんとか解体を踏みとどまっていただきました。

 しかし、老朽化が著しく、空き家となり使い道がない状態でした。そこで、平成26年から、国立高知工業高等専門学校(以下「高専」)で建築を学ぶ学生たちと、建築の専門家である(公社)高知県建築士会の若手メンバーが中心となり、「すてきなまち・赤岡プロジェクト」(平成26年12月設立 浜田義隆代表理事)を立ち上げ、赤れんが商家の保存・再生に取り掛かることになりました。

町家の軒下に飾られる芝居絵屏風
絵金祭りの日の赤れんが商家
(高知県香南市赤岡町773)

ワークショップで伝統木造建築に触れる

 建物の傷んでいるところを高専生や地域の人々と一緒に直すワークショップを、月に1回程度のペースで行っています。畳の張り替え、根太(ねだ)の交換、改築箇所の解体、かまどの復元、庭の整備、門・釜屋(かまや)の改修、襖の張り替えなど、できるところから徐々に進めてきました。ワークショップでは、工事をお願いする大工さんをはじめ、左官、表具、板金、小舞(こまい)、瓦など、土佐の伝統構法を引き継ぐ職人の方々に講師となっていただき、体験を通して伝統構法の良さを理解する貴重な場となっています。また、ワークショップの日のお昼ご飯には、レンガのかまどで炊いたかまどご飯をみんなで囲むことも楽しみの一つです。

襖の張り替えワークショップ襖学(ふすまなび)
お昼の楽しみはかまどで炊くご飯!

古民家お掃除ボランティア

 平成29年から、赤岡中学校の全校生徒の皆さんと、赤岡町の町家にお伺いし、土間や窓ガラスをきれいにするおそうじボランティアを実施しています。徐々に協力してくださるお宅が増え、町家が持つ歴史的価値に触れながら街の方々とのコミュニケーションを図る機会になっています。町家を守り続けてもらいたいという思いで取り組んでいます。

地域交流拠点として

 町のシンボルである赤れんが商家には、誰でも利用できる、立ち寄りやすい空間であってほしいと考えています。そこで月に1回、パンケーキを楽しみながら香南市の和裁士さんの和裁風景をみていただける「パンケーキ&和裁カフェ」を開催しています。また、講演会やセミナーなども不定期で開催しています。

赤岡中学校との古民家おそうじボランティア
月に1度のパンケーキ&和裁カフェ

23点の屏風を飾る23軒の町家を未来へ

 現在の課題として、赤れんが商家の大屋根の老朽化が著しく、修繕が必要な状況となっています。また、他の町家の滅失が進んでおり、面的な取り組みへと展開させる必要があると考えています。今年度は、クラウドファンディングにも挑戦する予定ですので、応援よろしくお願いいたします!

すてきなまち・赤岡プロジェクトの活動は、ホームページ・Facebook・YouTubeでご覧いただけます。
ワークショップや活動への参加も募集しております。
※コロナウィルス感染状況により変更しますので詳しくはお問い合わせください。

ホームページQRコード

https://www.akaokaakarenga.org
連絡先:akaokaakarenga@gmail.com
080-1432-4947(北山)

すべての人たちが安心して地域で生活ができる社会に

【寄稿】NPO団体レインボー高知 宮田しん

 高知市では、令和2年11月に「高知市にじいろのまち宣言」が行われ、同3年2月から「高知市パートナーシップ登録制度」が始まりましたが、LGBTQ(*1)の方々が置かれている状況について、まだまだ詳しい内容を知らない方も多いと思い、レインボー高知の代表 宮田真さんに依頼し、寄稿していただきました。(森岡)

はじめに

 私たちの団体は、高知市で性的マイノリティへの差別や偏見、社会的な孤立をなくすために、性的マイノリティの人とアライ(理解者・賛同者)が連携し、すべての人たちが安心して地域で生活ができる社会の実現に寄与することを目的として平成31年1月1日に発足しました。性的マイノリティ当事者とアライで、身体の性、心の性、好きになる性、表出する性、同性パートナーへなどの正しい知識を広め、理解者を増やし、性的マイノリティへの偏見や差別を無くしていくため、高知県内を中心に次のような活動を行っています。

《活動内容》
● 高知市にパートナーシップ制度の創立に向けた署名・市議会議員と意見交換等
● じんけんふれあいフェスタ出展
● レインボー映画祭(人権ふれあい支援事業の助成金を受けた事業)
● 中高校生・専門学校生への講演・学習会
● 性的マイノリティに関する相談窓口の設置 など

性的マイノリティの現状

 パートナーシップ制度の創立に向けた署名活動を行っている際に、「LGBTの言葉を聞いたことがない」「性的マイノリティの人はそばにいない」などの声を、たくさん耳にしました。人口の約3~10%が性的マイノリティ(電通ダイバーシティ・ラボ、名古屋市、LGBT総合研究所等の調査による)だと言われている中で、高知県では、性的マイノリティへの認知度がまだまだ低いのではないかと思います。

 LGBTs当事者が職場等でカミングアウトをしていない割合が7~8割という状況(厚労省の昨年度の調査による)で、教育現場・企業・医療現場など、性的マイノリティの人にとって日常で困難な場面は色々あります。

これからの課題や将来への展望

 これまでは、性的マイノリティの総称をLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)と扱われてきました。

 しかし近年は、同性愛・両性愛・トランスジェンダーでは表せない当事者の自己表現が増えています。ですから私たちはそれ以外も表す複数形のLGBTsを使用します。

 性的マイノリティ当事者を理解しない人は、〝性的指向と性的嗜好の違い〟(*2) が分からず、自らの意志で同性愛者になり、トランスジェンダーになると思っています。しばしば自己表現によって勘違いされるのですが、殆どの当事者は、成長のある時点で気づき、世間一般的な普通感との違いに深く悩み続けることになるのです。

 ある子どもは死にたいと思うほど悩み、自傷や自殺未遂を起こすことや、他人からアウティング(第三者に本人の意志に反してセクシュアリティを広められること)やハラスメントに遭い、自殺してしまう例も少なくないのです。

 親から認めてもらうこともなく、自己肯定感が低いまま大人になります。

 性的指向・性自認の英語の頭文字をとってSOGIソジ(*3) という概念があります。これは、誰にでも好きになる性や、自分を男と思うか、女と思うかに幅があるという考え方です。

 一例をあげると、男性で「100%自分は男だと言えるのか」好きになるのが女性であるという感覚には「100%から0%まで無限の個人差がある」という考え方です。中には一生恋心が湧かない人もいます。

 コロナ禍で、より子どもが減ると言われていますが、恋愛や結婚に関する会話の際には、LGBTsを意識した言葉選びをお願いします。

 高知市パートナーシップ登録制度により、令和3年4月末時点で6組の登録があり、潜在需要を確認することが出来ました。

街頭署名活動を行う宮田さん
学習会での講演

 現在コロナ禍の中で対面活動が出来ないですが、メール・LINEやZOOMを使った相談や会議を重ねています。

 心の性や性的指向は一見できなくても、子どもでは自然に表現に表れ、いじめの原因になることも多いです。私たちは高知県内でそんな事例が無くなるよう学校、児童生徒、大人に働きかける活動を続けたいと思います。

 そして、性の多様性はジェンダーだけで無く、医学的にも存在することを学んでほしいと願っています。

【用語説明】
*1:LGBTQ
●L レズビアン(同性を好きになる女性)
●G ゲイ(同性を好きになる男性)
●B バイセクシュアル(性別に関わらず好きになる人愛者)
●T トランスジェンダー(心と体の性が異なる人)に、
●Q クエスチョニング(自らの性のあり方について特定の枠に属さない人、あるいは分からない人)を加えていう。

*2:“性的指向と性的嗜好の違い”
性的指向とは「どの性を好きになるか」であり、性的嗜好とは、「何に対して性的興奮を覚えるのか」いわゆる「○○フェチ」のこと。

*3:SOGI
性的指向(Sexual Orientation)に性自認(Gender Identity)の頭文字をとった言葉。すべての人が共通して持っている属性のこと。

問い合わせ先

NPO団体レインボー高知
メール:rainbow_kochi@yahoo.co.jp

高系(こうけい)4号(通称護国芋)芋焼酎「神池(かみいけ)」の誕生までとこれから~地域を救うかもしれないサツマイモ~

【寄稿】農と生きもの研究所 谷川たにがわ とおる

 令和3年3月、香美市ものづくり会議物部川ブランド分科会の活動で物部町の伝統野菜、高系芋で限定500本の芋焼酎が作られました。焼酎の原材料となるサツマイモの栽培に携わった「農と生きもの研究所」の谷川徹さんに寄稿していただきました。(うらい)

自家製の楽しみ

 ついこの間まで日本のあちこちでは、多種多様な穀類やイモ類、果物を原料とした密造自家用酒がささやかな楽しみとして(かも)されていました。高知も例外ではなく、笑い話として昔話などに伝わっています。

地域資源の発掘

 2018年に香美市ものづくり会議調査の一環として、物部地域の在来作物の調査を行いました。限られた時間であり、いくつかの地域のみでしたが、興味深い栽培品種や加工品を見ることができました。

 物部町神池を訪れ地元の方と話をしていたところ、ある女性が「ケンカ餅(*1)にはコウケイよ。あれがなくてはいかんぞね」と言うと、同席された男性が「そういえば昔は焼酎を徳島との県境までいて(*2)、物々交換して」とついこの間の昔がたりで盛り上がりました。

サツマイモに救われた

 多種多様な在来作物が消えてゆく要因は、

◎地域行事の衰退や伝承の断絶によりそれらを原料とした加工品が作られなくなったこと
◎品種名称がないこと

なのですが、皆がこのサツマイモを「コウケイ」とはっきりと呼称していたのです。これはなかなか珍しい。もしや!と思い詳しくお聞きしたところ、戦中戦後国内で年間10数億トン作られたサツマイモの品種の一つの生き残りである、高系4号 (通称護国芋)である可能性が高くなりました。*遺伝的確認はこれからですが、形状由来等は一致しています。

 現在のねっとり系の食味(しょくみ)中心嗜好(しこう)ではほとんど作られなくなった品種です。在来作物というにはやや新顔ですが、かつてのスーパーヒーローです。

 親は「元気」「(しち)(ふく)」、昭和初期に沖縄農業試験場の松永技師の手で交配され、昭和13年三重県と高知県の農業試験場で育成されました。食料はもちろん工業原料や戦時中はアルコール燃料としても活用され、まさに護国であっただろうと想像されます。

新たな視点で地域の名産に

 そして今多くの方の尽力により、高系4号が新たな地域資源として復活しようとしています。サツマイモはかつてほどの栽培面積もないですし、人々が争うように食べる好物でもなくなりつつあります。が、この品種がもつ抜群の多収性や少肥料性、耐乾性などは後世に伝えたい遺伝資源とも言えます。

いつの日か地域の休耕田がサツマイモ畑に変わり、猪との戦いを乗り切って焼酎と交換できるようになればとひそかに願っております。

完成した焼酎「神池」
[画像提供]
㈱土佐山田ショッピングセンター
物部町 神池遠景
育苗風景(神池地域にて)

【注釈】
*1:ケンカ餅
サツマイモと里芋を蒸し、き合わせた餅状のお菓子。
地域や家庭で多様な味付けがある。
*2:いて
土佐弁で「行って」という意味。

問い合わせ先

農と生きもの研究所 谷川 徹
t-tanigawa@mb.pikara.ne.jp
https://www.facebook.com/noutoikimono
https://noutoikimono.com

「天国からの寄付ぎふと」寄付先団体Part4

【寄稿】NPO法人アテラーノ旭 前理事長 山中雅子のりこ)

 市民活動団体が活動を継続していくうえで運営資金をいかに確保するかが大きな課題となっており、資金確保の仕組みとして「寄付ぎふと」プロジェクトがあります。
 今回は、寄付先団体より「アテラーノ旭」前理事長の山中雅子さんに寄稿していただきました。(うらい)

駆け足の15年

 アテラーノ旭ができて15年になりました。
 はじめは「まちのお茶の間」から出発しました。「公益信託高知市まちづくりファンド」の助成を受けて、地域の人の居場所が整いました。

 その後、集いの場に来ることのできない高齢者へお弁当を届ける「配食事業」を始めたり、ご近所の家の土間を借りて「いきいき百歳体操」を行ったり、少しずつ輪を広げることができてきました。

コロナ禍がはじまったころの学生支援「無料の良心市」

コロナにも負けずに

 昨年からのコロナ禍でイベントが中止になることが多かったのですが、地域の人達との繋がりを大切にしたいと、節分の日の「鬼の福分け」は今年も行いました。

 最近注目されている「子ども食堂」に取り組みはじめて2年になりますが、コロナ禍で今はお弁当という形で1か月に1度、120個から150個を作って届け、喜ばれています。

 この間いただいた「寄付ぎふと」は、主に子ども食堂の食材購入やボランティアさんへの謝礼に使わせていただき、ほんとうに助かっています。

アテラーノ旭の最近

 新たに取り組んできたのが「新型コロナウィルス対応緊急支援助成」の事業です。昨年12月から今年5月までの短期間の事業で、国民の残した休眠預金を利用し、「一般社団法人全国コミュニティ財団協会」が公募したものです。アテラーノ旭は「新型コロナウィルスに負けないまちづくり」としていくつかの取り組みを行いました。スクールソーシャルワーカーや高知市の保健師と連携して必要としている子どもたちの家庭に、学校給食の無い日・冬休み・日曜・祭日・春休みに無償でお弁当を届ける事業や、コロナ禍で増加しているといわれているDV被害者や生きづらさの中で心を病んでしまった人たちへの食を通した支援等などです。この事業を通じて、地域には貧困・孤独・孤立をかかえながら声を出せずに悩んでいる人たちが居ることを知りました。

 こうした経験をいかし、今後も地域に寄り添い、〝ひとりもとり残さない〟地域づくりに取り組みたいと考えています。

問い合わせ先

NPO法人アテラーノ旭  住所:高知市元町44
TEL:088-873-1082
(日曜・祝日を除く9時~17時)
https://ateranoasahi.amebaownd.com

“アテラーノ”とは高知の方言(土佐弁)で、“わたしたちの”という意味です。

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