えぬぴぃOh!vol.80(2022年春号)_web版

東日本大震災を想う

 2011年3月11日、地震と巨大津波、福島原発事故。未曾有の大災害は、被災者47万人(発災当初)、死者1万5,899人の尊い命を奪い、行方不明者2,526人。(2021年3月時点)この内、死因の90%が溺死。そして、今も4万人以上の方が、慣れ親しんだ地域外で暮らしている。

陸前高田市被災状況(2012年5月撮影)

復活の湯&薪

 わたしたちNPO法人土佐の森・救援隊は、3.11から1週間後、岩手県大槌町おおつちちょう吉里吉里きりきり地区に入る。得意技である森林整備の技術とネットワークを活かし、チェーンソーを担ぎ、関東方面からの支援活動の邪魔にならぬよう一旦、日本海に出てぐるりと大回りしながら入る。岩手県庁職員や自衛隊、薪ボイラー会社等の助けを得て、大槌町の許可を取り、膨大なガレキをチェーンソーを用いて薪にしてボイラーを焚き、〝復活の湯(入浴施設)〟を小学校の校庭に開設する。加えて、津波をかぶった沿岸の樹林を伐採、宮城県栗原市の製材会社に買い取ってもらい、その収益を復興資金に充当。その後〝復活の薪〟を製造、30kgの米袋を全国からかき集め薪を詰め込み、寄附付商品として全国に販売、復興支援金に。以降、雇用創出のコーディネート業務を幾つかの自治体から委託を受け、〝森づくりで雇用創造、被災者を元気に!〟をテーマに活動、現在に至る。

復興 今、やっと端緒に

 毎年、通う中で、橋梁の新設、防潮堤の整備、三陸自動車道の延伸、鉄道や新交通整備など、交通インフラの復旧が進み、徐々にアプローチしやすくなる。ただ、見た目は、復旧が急ピッチに進むにみえるが、復興という点からはやっとこさ端緒についたばかりではないだろうか。

 言いかえると、集団高台移転や災害公営住宅の建設が進むなど生活インフラの復旧はほぼほぼ終了。ハード面での復旧は着実に進むが、新しく再建されていく街や町で暮らす人々のコミュニティ形成や心身のケアなどのソフト面での支援はまだまだのように感じる。それより気になることは、新しい街や町に帰ることができない方々が多いこと。嵩上げや高台移転地の基盤整備が出来上がっても更地のままで、なかなか再建(戻ってこられない)が進まない地区を多く見る。

 それ以上に大変なのが、原子力災害被災地域。

 避難指示解除地域での生活の再建が始まった一方、帰還困難区域の避難指示解除や、廃炉・汚染水対策については、中長期的な復旧・復興には気の遠くなる日々が待っている。マスメディアは、よく〝復興〟という言葉を使うが、まだまだ端緒についたばかりではないだろうか、と訪れるたび思う。

今、考えること

 微力ながら後方支援を継続するわたしたちが常に考えることは、すべての人たちが心身の健康の回復と日常の生活を取り戻してほしい、ただこれだけである。

 海岸対策をはじめ都市基盤整備は着々と進む中、まちづくりの推進や安定・安心する居住の確保そして産業振興などなど、復興に向けた道のり、それは気の遠くなる作業である。

 今、第2期の復興・創生期間に入っているが、近年の熊本地震や頻繁に発生するゲリラ豪雨災害、そして新型コロナウイルス感染症と災厄が続く中、今後起こるだろうと言われている東南海・南海地震等に関心が移り、未曽有の東日本大震災の記憶の風化が進むことが気になって仕方がない。

 最後に、未だに不自由な生活を強いられている被災者(福島県では今なお多くの方々が避難生活を余儀なくされている)がいることを忘れないでほしい。誰一人も欠けることのない被災者支援ができてはじめて復興への道のりがみえてくるんだな~と、今、考えること。

訪れていただきたい 【1】東日本大震災津波伝承館

 多くの犠牲者をだした岩手県陸前高田市。過去の津波の歴史や東日本大震災の津波と被害を世界に、後世に伝えて行くためにできた伝承館。広大な敷地内には、奇跡の一本松も残されている。気仙地域に訪れる機会に恵まれたなら、ぜひ訪ねてほしい。

陸前高田市東日本大震災津波伝承館(2020年3月撮影)

訪れていただきたい 【2】気仙沼市10m防潮堤

 百年に一度の頻度で発生する津波を防ぐための堤防を国が公表。場所によっては、高さ10mを超える防潮堤が発表された。三陸沿岸、一様に巨大防潮堤の建設が進む。

 そんな中、〝海とともに生きてきた街〟宮城県気仙沼市は、住民の声が反映され、防潮堤を造らなかったり、後退させたりし、防災機能だけを第一としない手法が取られた。

 「海の変化が分からず、逆に怖い」、「安心感で避難の意識がなくなる」、「塀の中の刑務所のよう」、「閉塞感がある」、加えて「高台移転した地区への堤防は必要か!」「人が住まない沿岸への堤防は必要か!」などなど。

 いくつかの地区では地域の事情に応じて高さを下げたり、取りやめたり。そして、反対意見が反映されなかった地区もある。海が見えなくなることで、まちの活性化が阻まれたり、守るべき民家がなくなった浜に巨大防潮堤が出現したりといった矛盾も、指摘された。もちろん防災面での効果は計り知れないものがあるのだろうが、ヒューマンスケールを超える陸地と海を完全に遮断する防潮堤をみていただき何かを感じ取ってほしい。

気仙沼市本吉地区沿岸防潮堤(2016年9月撮影)
【トピック:東京オリンピック】

東京オリンピック開催数年前、気仙沼市で街の人からこんな会話をよく耳にした。「近頃、復旧工事のスピードが鈍化している」、「東京に多くの優秀な技術スタッフや作業員が取られている」、「オリンピックは緊急性が高く、時限性だから」と。東日本大震災復旧工事は緊急性が高くないのか!そこに時限性はないのか!

四宮しのみや 成晴しげはる

問い合わせ先

特定非営利活動法人 土佐の森・救援隊
土佐の森日高事務所:日高村岩目地字中山940-1
https://tosaforest.exblog.jp/

文化芸術を基盤とする社会を目指して

【寄稿】特定非営利活動法人 地域文化計画 理事 影山かげやま 千夏ちなつ

 高知をフィールドに文化芸術の振興とそれによる地域活性化を支援する活動をしなやかに、先駆的に展開する専門家集団のNPO法人地域文化計画さんから寄稿いただきました。(永野)

始まりは3人のなかまから

 NPO法人地域文化計画は、主たる事務所を高知市におき2019年3月に設立した文化系NPOです。高知県内で美術館博物館の仕事に携わり、それまでのキャリアの中で仕事を共にした、気心の知れた3人の仲間から始まりました。

 NPOという比較的フットワークの軽い立ち位置から、隙間にこぼれ落ちそうな地域(個人も含めて)文化の物事に何か貢献できることがあるのではないかと考え、それぞれフリーランスとなったタイミングで、NPOを発足することとなったのです。

 発足するにあたり、このNPOの目指すこと、理念などをまとめたのが次のようなことです。

 人口減、高齢化などによって引き起こされるさまざまな課題を解決し、心豊かで活力があり、そして包摂力のある地域の基盤づくりに、芸術や文化が重要な役割を果たすことが近年広く認められるようになっています。文化芸術基本法の制定、文化財保護法の改正など、その実現を後押しする法的な環境も整ってきました。そこで必要なのは、文化芸術分野における専門知識と経験を有し地域と協働して活動する人材と、地域とを結び合わせる役割です。私たちは、地域の未来をつくろうとする人々の理解と協力のもと、その役割をより確実に果たすため、地域文化計画を設立します。

 発足から3年。様々なスキルを持つ方が賛同し集まってくれました。新聞社や文化行政の経験者、文書・文化財修復士、写真家、デザイナー、研究者などなど。アプローチの方法は様々ですが、地域の文化を豊かに感じられるものとなることを目指している皆さん。活動を共にしたり、アドバイスをくれたり、見守ってくれたり、それぞれの立場で関わりを持ってくれています。

ゆくゆくは高知における文化関係の職種の選択肢の一つに

 NPOといえば、ボランティア(無償)で活動する団体というイメージが強いのですが、私たちは地域文化計画を主たる業務として生計を立て、ゆくゆくは高知における文化関係の職種の選択肢の一つになればなと思っています。発足時にサポートしてくださった高知県ボランティア・NPOセンターの方にも、「正当な対価を得て、継続できる力をつけてください」と助言を受けました。まだまだ道半ばですが、意外と?お仕事をいただいています。

取り組んでいること

 これまで請け負った主な事業は、民間の展覧会サポート、古文書などの翻刻ほんこくデジタル化事業、文化イベント事業、史料修復、美術品マット装など。これらの収入や助成金なども積極的に活用しながら、当法人のミッションに沿って、ドキュメンタリー映画の上映、文化財保存研修、古典写真ワークショップなどを実施してきました。昨年からは、限界集落の営みを聞き取り、写真、映像などで記録する活動を継続して行っています(こちらは助成金獲得に失敗して動きが鈍っています…)。

受託事業「中芸みんなの日本遺産
ゆず林鉄expo 2021」よりライブペイント
研究会「これからの文化財の保存・活用と地域の未来」
海外日系人協会より依頼を受けて
アーカイブ資料の修復作業をするメンバー
メンバーのカフェにてゲストを招いた例会
企画展示に協力した
「土佐の交通王 野村茂久馬翁生誕150年展」
高知 蔦屋書店 トークイベント

すこし知的な夜の過ごし方の提案

 このようなスタイルで、プロジェクトごとに集まり、終わると解散、自由な形で活動をしています。あれこれと単発の活動をしていますが、発足当初からおこなっているのが高知 蔦屋書店でのトークイベントです。

 高知の大人の夜の過ごし方は、「美味しい食事とお酒!」ですが、それ以外のすこし知的な平日夜の過ごし方の提案として、高知 蔦屋書店との共催で不定期にはじまった文化トークイベント。音楽家、学芸員、学者、高知の若きアーティストにもたくさん登壇してもらい、これまでに20回近く開催してきました。本に囲まれた空間で、ドリンク片手に20人ほどの参加者とゲストが一つのテーマで時間を共有する、高知にはなかったあたらしいスタイルの時間の提供が定着し始めてきた頃コロナ禍となり、残念ながらリアルな空間は閉ざされてしまいました。現在は、状況を見ながらゆっくりとしたペースで行なっています。

 一番最近開催したのは「満洲」のこと。満洲引き揚げ体験者と大学生とのトークイベントでした。90歳台から20歳台へ歴史のバトンが渡せた瞬間でした。こうした若い方にも私たちの活動に関わってもらい、大学生も巻き込んだ動きができれば素敵だなと思います。

これから

 コロナにより様々な活動が制約を受け集まりづらくなっていますが、あらたなIT技術も取り入れながら、アフターコロナの新しい時代が文化に満たされた生きやすい社会となっていることを願い、持続可能な地域文化計画を育てていきたいと思っています。

活動を支援して下さる方を募集しています。
■正 会 員 年会費5,000円
■サポート会員 1口2,000円/団体1口10,000円

問い合わせ先

事務所:高知市本町4丁目1-37
丸ノ内ビル1-7
http://opalh.jp/
info@opalh.jp

自分も相手も信じきる ~特定非営利活動法人井戸端わもん~

 ネットには「伝え方」が大切というワードが溢れ、話し方教室なども持てはやされている。書店や図書館でも情報発信方法の重要性を解く本がよく見られる。

 しかし、コミュニケーションは双方向の筈なのに「聞き方」の本はあまり見ない。

 今回、様々な場面で、聞くことによる自らの輝きを信じきる自己修養法の聞き方を日常に生かしてもらうことで、地域住民の「聞く力」の向上を目指している(特非)井戸端わもん(以下「わもん」)を訪ね、川窪かわくぼ たからさんに話を聞いた。

「わもん」は話を聞く座禅

 川窪さんが人生の節目で出会った話の聞き方教室「話聞わもん塾」。そして、それを学んだ塾生と一般ボランティアが協働し,安心安全な空間のなかで、多様性ある地域の方々の話を聞く「井戸端わもん」の取組を聞き、続いて「わもん」を体験した。

 腑に落ちたところも、理解が到達できないところもあるが、私は「わもんは禅」だと感じた。川窪さんは「わもんは話を聞くことによる自己修養法だ」とも言う。

絶対尊敬と完全沈黙

 聞くことがなぜ修行なのだろうか。体験してみるとこれがなかなか深い。

 人の話を聞いていて、口を挟みたくなったり、実際に相手の話に割って入ったりしたことはないだろうか。私は「わもん」を体験して、相手の話に反応しなくてはならないとか、どう返すべきかを考えながら身構えて話を聞いている自分に気づいた。

 価値観の違いで相手を否定してしまうことを止め、話し手の物差しを取り込み、相手を絶対尊敬する。受け入れがたい内容は、その理由を問い、考えに至った経験を聞く。どんな経験がそういう気持ちを生んだのか、相手の物差しの成り立ちを聞くことで、肩の荷を下ろして聞ける。

 自らの感想や意見を返すのではなく、相手を信じきって、相手が発した同じ言葉で返すことで、相手は受け入れてくれた、寄り添ってくれたという感情を抱く。本当は話している相手の中に答えは既に持っているのだ。

 「わもん」では、相手を信用して「ありのままに尊重と完全沈黙で聞く」「自らの思考を停止しただ聞く」「相手の声なき声を聞く」そして「感じる」ことが重要と言う。

お互いが相手の話を聞き合う
講座の様子(奥に座っているマスク姿が川窪さん)

必要とされる「わもん」

 今の世の中は、コミュニケーションで相手を論破し意見に従わせる場面が多すぎる。

 ビジネスの場面では必要なこともあるだろうが、夫婦や親子、親友や心許せる相手との会話では、相手の真意に寄り添うコミュニケーションが求められる。

 コロナ禍の中、川窪さんは日本全国で「井戸端わもん」を開催し、2011年の活動開始以来、昨年末で四千回を超えた。こんな時代だからこそ「わもん」は多くの人に求められている。

(森岡)

(特非)井戸端わもんのホームページhttp://idobatawamon.org/

問い合わせ先

TEL:080-5662-7741(川窪)
Mail:npoidobatawamon@gmail.com

サポートセンターのスキルアップ講座について ~コロナ禍のNPOが必要とする学びの機会~

 高知市市民活動サポートセンターでは、市民活動の話題を切り口にする「公開講座」と、NPOの活動に役立つスキルを学ぶ「スキルアップ講座」を開講しています。

「スキルアップ講座」について

 令和3年度は「スキルアップ講座」でカリキュラムを組みました。毎回、どのような内容を提供するかについては、その時々の時代のニーズに合わせ、NPO活動に役立つスキルということを念頭に、企画を検討しています。

 コロナ禍の中、NPO活動を止めることなく、広げていくために必要なスキルということを中心に、全3回の講座を開催しました。

相手に伝える「広報」のための広報マーケティング講座

 コロナが収束した後に、それぞれのNPOが様々なイベントを開催する際の集客アップや、自分達のことをもっと効果的に知ってもらうための「案内チラシ」の作成方法を、マーケティングを得意とする講師を招いて、マーケティングの基礎から学ぶことができる講座を開講しました。

第一回
県内の学校で授業もされています。

講師:坂上さかうえ 北斗ほくとさん
ネクストメディア株式会社 代表取締役
日本広報学会 中四国部会 事務局長
https://hokuto.ooo/

Zoom講座 初級編 ~リモート会議に参加、主催してみよう~

 昨年度も開催して非常に評判の良かった、「Zoom」というWeb会議ツールを使い、インターネットを介して行うオンライン会議やイベントへの参加の方法について自分達でも開催する方法を学びました。コロナ禍でインターネットを活用した「つながり方」にトライするNPO関係者が増えており、今回も好評でした。

第二回 あっと言う間に定員が埋まったZoom講座
講師:尾崎おざき 昭仁あきひと
(高知市市民活動サポートセンター)

助成金をてこに成長するファンドレイジング

 コロナ禍で活動に制限がかかり、財政状態が厳しくなっている団体の話も聞こえてきていたので、NPOにとって大きな財源となる助成金について、認定NPO法人日本ファンドレイジング協会のオンラインセミナーの提供を受けて、助成金獲得のイロハを学び、その後は参加者同士で助成金獲得のノウハウを共有し合いました。

第三回 講座を開催した12月は、寄付の文化を広める「寄付月間」でした。

寄付月間(Giving December)とは、「欲しい未来へ、寄付を贈ろう。」を合言葉に毎年12月の1ケ月間、全国規模で行われる啓発キャンペーン。

 次年度(令和4年度)以降も、その時々でNPOや非営利活動をされている方々にプラスになるような講座を開講していきたいと思います。楽しみにしていてください。

(北川)

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